エビデンスからみた骨盤矯正の嘘、本当


最近骨盤矯正という言葉をよく聞きます。産後の骨盤矯正も近年巷では流行っているそうです。でも骨盤って本当に歪むのでしょうか。そもそも体の外からみて骨盤の歪みがわかるのでしょうか。産後に骨盤矯正って必要でしょうか。今回は医学的観点から見た骨盤矯正の実際をぶっちゃけてみようと思います。
本日の担当は理学療法士の片岡です。宜しくお願い致します。


まず骨盤について説明したいと思います。骨盤は中央にある仙骨と左右に2対ある腸骨の3つの骨から構成されています。骨盤には3つの関節があり、仙骨と左右それぞれの腸骨の間には仙腸関節、腸骨と腸骨の間には恥骨結合があります。これら3つの骨と3つの関節から構成されるのが骨盤です。主に可動性があるのは仙腸関節と呼ばれる関節で、研究によって多少異なりますが、正常では0.4〜4.3°の可動性があると言われています(Jacob & Kissing 1995.)。年齢とともに固くなって関節が固まり、全く動かなくなる方もいます。

骨盤の歪みに関してですが、正直見たり触ったりするだけで判断することが非常に難しいです。そもそも骨盤が左右対称ではないことがCTを用いた研究でも証明されており、150例のご遺体すべてにおいて男女ともに骨盤の非対称性が確認されています(Kristin H,et al.2020.)。そもそも左右対称でないものがズレているかどうか判断することは困難です。痛みの有無や力が入りやすいかどうかで、骨盤が良い姿勢にあるということを判断していることが多いと思われます。正直に話せば歪んでいるかどうかは確実にはわかりません。あくまでも推測の域を出ないのです。たいていは骨盤周囲の関節が硬くなっているせいで、あたかも骨盤がズレているかのように思えているだけです。
 

とはいえ、本当に歪んでしまう稀な病態もあります。一例ですが、恥骨結合離開や仙腸関節不安定症という病態があります。これらの病態があれば歩行困難な状態になるので、日常生活を普通に送られている方はさほど心配をする必要はないかと思われます。

最後に妊娠中、産後の骨盤について話したいと思います。妊娠中には、体が柔らかくなることが知られています。これは出産へ向けた重要な体の変化です。妊娠中に骨盤が柔らかくなる要因として主にリラキシンというホルモンが知られています。実はリラキシンは妊娠中以外にも生理周期によっては分泌されています。妊娠中にホルモンの分泌によって全身の靭帯が柔らかくなるのは、出産するためのものです。産後も生理が再開するまでは、全身の柔軟性が増している状態が続きます。授乳中はホルモン分泌が減らないため、全身が柔らかい状態が続きます。産後の骨盤の回復は概ね3〜8ヶ月ほどで起こります。つまり勝手に3~8ヶ月程度で骨盤は柔らかい状態から回復します。ですのでたいていの方には骨盤矯正は必要ないと思われますし、そもそも矯正しようにもどう矯正したら良いのかを判断することはできません。

産後にある痛みや動きにくさの多くは、出産するための体から育児などの負荷に耐えられる体に戻っていないこと、妊娠中の体の使い方が産後も残っていて正常な回復が妨げられている場合や産後すぐの仕事、家事や育児などで過剰な負荷がかかっている場合が多い印象です。産後は出産によって骨盤底筋や腹部の筋が弱った状態のため、すぐに産前のようには動けません。そのため産後は周囲の方のサポートが重要です。我々理学療法士も骨盤
底筋や腹部の筋などを再び働くのをお手伝いするなどして、妊娠中、産後の生活をサポートすることが出来ます。海外では、産後に骨盤底筋と腹部の筋肉が正常に働かないと退院できない国もあります。


骨盤周囲の痛み、妊娠中や産後の体の痛みや動きにくさがありましたら、一度当院の医師にご相談ください。

なお妊娠中でリハビリ希望の方は産婦人科の主治医の先生に確認を取ってからの受診をお願い致します。